2012年2月25日土曜日

地域政党が招きかねない国家の危機

【ついき秀学のMirai Vision】 
 <フジサンケイビジネスアイ 寄稿コラム 2012.2.24> より転載


幸福実現党党首  : ついき秀学

橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」の次期衆院選マニフェスト「維新八策」のたたき台が今月13日に明らかとなり、永田町やマスコミで物議を醸しています。

坂本龍馬の船中八策になぞらえて作られた維新八策は、橋下氏がかねがね訴えている統治機構の見直しや教育改革など8つの柱で構成されており、首相公選制や参院廃止といった憲法改正マターまで含まれているのが大きな特徴です。  

これと並行して、「衆院選で300人程度の候補者を擁立し、200議席獲得を目指す」という維新の会が、候補者養成の場として3月に開校する「維新政治塾」には、定員400人のところに3300人を超える応募が寄せられており、橋下氏の求心力の高さが表れています。


◆「道州制」は国家解体への道  

日本が閉塞(へいそく)状況にある中、現状を打開する強いリーダー出現への期待感が橋下氏を後押ししているように見受けられますが、わが国は現在、覇権主義を強める隣国の軍事的脅威に直面しており、維新の会が国政に打って出るのであれば、その外交・安全保障政策が大きく問われなければなりません。

しかし、維新八策のたたき台を見る限り、残念ながらセンスを疑わざるを得ない内容となっています。

何と言っても最大の問題点は、橋下氏のかねてからの持論でもある「道州制」です。

もちろん、地域住民の多種多様なニーズに即応するために、地方自治体が一定の財源と権限を委譲され魅力ある地域づくりを行うこと自体は推進されてしかるべきです。  

しかし、道州という広大な地域に巨大な権限を移譲すれば、日本という国家が解体に向かうリスクを飛躍的に高めてしまいます。

仮に道州制が、外交・防衛は国の専管事項(現在もそうですが)と法律的に定めるものであったとしても、例えば道州政府に地域住民の圧倒的な支持を得た強力な指導者が誕生し、わが国からの「独立」を志向するようになれば、地域“主権”の名の下に外国との交渉を勝手に始めたり、特定の隣国との結び付きを本国以上に強めるなど、事実上の行為で国家の一体性を破壊していく挙に出ないとも限りません。

既に沖縄では米軍普天間飛行場の移設問題について国と県との間で意見が対立し、日米合意に基づく県内移設がほとんど進捗(しんちょく)しない状態が続いており、安全保障の根幹をなす日米同盟に暗い影を落としています。

橋下氏が「霞が関」を敵視するあまり、国家に対して道州制がもたらす致命的な負の影響を見落としているならば、認識不足との批判は免れないでしょう。

◆豪州よりもインドとの関係強化を  

維新八策のたたき台では、外交・防衛に関して「自主独立の軍事力を持たない限り日米同盟を基軸」と記されています。

これ自体は常識的な立場といえますが、たたき台の表題で「日本再生のためのグレートリセット」と掲げながら、安全保障政策に関して憲法9条の問題に触れないのはあまりに踏み込み不足です。

万が一にも選挙で票にならないからという理由でこの問題を敬遠しているのであれば、維新の会も、国民を守ることよりも選挙の勝利を優先する既存政党と本質的に変わるところがありません。  

さらに維新八策では「日米豪で太平洋を守る=日米豪での戦略的軍事再配置」と、豪州との軍事的な連携強化を打ち出したのが新機軸といえますが、わが国の安全保障上の最大の脅威が中国であり、その軍事的膨張を抑止するという観点からすれば、関係強化をより優先すべきなのは、中国に隣接しているインドなのです。  

世界最大の民主主義国であるインドは、元来親日的で仏教を通じた文化的なつながりの素地もあり、かつ核保有国として中国を牽制(けんせい)できる立場にあります。

実際、インドは南シナ海の権益問題で中国とせめぎ合うASEAN諸国側を支持しており、わが国としても今後日印関係を強化し、(集団的自衛権の問題を解決の上)同盟締結にまで持ち込む努力を積極的に行うべきでしょう。  

橋下氏や維新の会が以上に述べた外交・安全保障上の問題点を抱えたままでは、国家のかじ取りに影響を与える地位に就けるわけにはいきません。地域政党としての分をわきまえるべしというのが結論になります。

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